COLUMNSコラム
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作品を知る
兎は、上下が入れ替わると死ぬ——北秀・ゲラール・ウードリーほか九点
九点の兎を数えると、生きている兎は耳を立てて同じ方向を見ていた。死んだ兎は逆さに吊るされ、耳が垂れている。上下が反転することが、そのまま生死の合図になる。題にしかいない兎も一羽まじっていた。耳を立てているのは、生きて自由な兎だけである。
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作品を知る
鹿は、角の枝を数えられる獣である——ドービニー・ボヌール・ヴァレンタインほか九点
牛や馬は体の大きさで値打ちを測られた。鹿は頭に付いた枝の数で測られる。九点を数えると、追われるか倒れているのが三点、静かに立つのが四点。角の枝が十二本を超えると、その鹿は王者と呼ばれる。数えることが、そのまま呼び名を決めている。
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美術史・技法
牛は、値打ちを見せるために横を向く——カイプ・陳洪綬・ドーミエほか九点
九点の牛を数えると、働いている牛は二点しかなかった。三点は体の側面だけを見せ、二点は風景の中の数ミリの塊になり、一点は星座の記号になり、一点には三万フランという値段が書き込まれている。角の形が、そのまま土地の違いになっていた。
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美術史・技法
馬は、人を高くするための台になる——デューラー・カルル・ヴェルネ・ナダールほか九点
九点の馬を数えると、走っている馬は一頭もいなかった。前脚を上げて止まるか、四本の脚で立つか、首だけを見せるか。そして二点には馬がいない。槍を受ける甲冑と、鞭だけを持つ乗馬服の肖像である。速さで知られる獣が、絵の中では止まっている。
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作品を知る
犬の絵は、たいてい人の絵である——ホルツィウス・ドルーエ・ラリックほか九点
九点の犬を数えると、犬だけが描かれているのは三点しかなかった。四点では人の忠実さや装いを説明する役をあてがわれ、一点では取り引きの品として囲まれ、一点では皿を回る金の模様になっている。説明の役を負いながら、視線だけは人から外れている。
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作品を知る
猫は、顔を見せないまま絵になる——川端玉章・閔貞・スタンランほか九点
九点の猫を数えると、こちらへ顔を向けているのは三点だけだった。魚をくわえ、栗を取り出し、鸚鵡に立ち向かう猫である。何もしていない猫は、背を向けるか、見下ろされるか、人の腹に顔を埋めている。顔を見せない猫も、絵として成り立っている。
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作品を知る
水鳥は、水の上にいない——蒋廷錫・狩野山楽・馬麟ほか九点
鴨も雁も白鳥も鷺も水の鳥である。ところが九点を数えると、泳いでいるのは二点だけだった。三点では器そのものの輪郭になり、一点では台の上に横たわり、一点では遠い山を越える数ミリの点になっている。首の曲線だけが、どの点でも欠かさず描かれていた。
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作品を知る
鶏は、鳴く前に「もの」になる——ブラックモン・雪佳・デュシャン=ヴィヨンほか九点
もっとも身近な鳥を九点数えると、自分の脚で立っている鶏は三点だけだった。二点では死んで吊るされ、三点では磁器や木彫やブロンズの形になり、一点では荷物として担がれている。鳴いている鶏は一点もなかった。老いた雄鶏の脚だけが、まだ立っている。
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作品を知る
猛禽は、捕る前と捕った後にしか描かれない——八大山人・湖龍斎・フロマンタンほか九点
鷹と鷲を九点数えると、獲物を捕らえる瞬間は一点もなかった。腕から放たれる直前か、鴨を渡す直後か、岩の上で止まっているか。二点にいたっては鳥がおらず、鷹狩りの道具と、鷹を意味する名前だけが残されていた。
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作品を知る
鶴と亀は、名前になって画面から消える——清風与平・陳洪綬・キドールほか九点
長寿のしるしとして知られる鶴と亀を九点数えると、生きものとして立っているのは六点だけだった。残りでは甲羅が家具の素材になり、鶴の字が遊女の名になり、鶴を意味する語が追われる男の姓になっている。めでたさは、館の記録ではほとんど語られない。
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美術史・技法
止まった画面に、時計が立っている——ブール・スリンゲラント・歌麿ほか九点
べっ甲と金のブールの置時計には「時は絶えず進む」という銘があるという。実物の時計と、手の中や塔の上に描かれた時計、題名のなかの時計。九点を数えると、最大も最小も実物の側で、絵の時計はいつも人の傍らにいた。針の指す時刻だけは、どの記録も書かない。
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美術史・技法
鐘は、題の中でしか鳴らない——池大雅・ロートレック・ライダーほか九点
鐘の絵を九点集めると、鳴っている鐘は一つもなかった。鐘楼には穴だけが並び、晩鐘も夜半の鐘も警鐘も、題と詩の中にしかない。器の形、花の名、人の名、会社の名。音を出す道具の名前がどこまで広がるのかを数える。
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美術史・技法
まっすぐ立つのは、疲れた人だけ——ブルトン・バスティアン=ルパージュ・北斎ほか九点の収穫
収穫の絵を九点集めて、どの瞬間が選ばれたかを数えた。刈っている最中の絵は一点もない。研ぐ、拾う、積む、摘む——絵は刈る前と後に偏り、働く体はほとんど曲がっている。麦だけでなく、蕨と葡萄、そしてトリュフの風刺まで並べた。
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美術史・技法
十二か月の絵は、一枚ずつ旅をする——ゴブラン工房・ベーハム・国貞ほか九点
一年を十二枚で描く、そろいの絵を九点集めた。六点がそろいを離れて来た一枚で、月は七つ来ていた。宮殿の壁の綴織から江戸の絵暦まで、大きさも使い道もまるで違う。焼かれた先代を持つ五月と、暦の字だけが一致した鉢の話も添えた。
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作品を知る
凍った水は、道になる——ファン・デル・ネール・アーフェルカンプほか九点
水が凍ると、人はその上を歩ける。凍った水の絵を九点集めると、六点で氷の上に人がいた。滑る、渡る、洗う。氷そのものは灰色の面でしか描けず、人が乗って初めて氷に見える。乗れない氷河、器の文様になった氷裂、雪解けの積みわらまで、ひと冬だけの広場と道をたどる。
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作品を知る
風は、なびくものを借りて吹く——湖龍斎・普明・金振宇ほか九点
風の題を持つ絵を九点集めて、なびく係を数えた。帆と旗、凧の糸、そよぐ竹に、葉を飛ばす竹。なびくもので風を見せる絵が六点、題の中にだけ風の吹く絵が一点、吹かない風流の風が二点。幹の傾きに何十年の風を刻んだ松まで、見えない風の描き方を見くらべる。
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美術史・技法
正月の絵に、門松は立っていない——湖龍斎・呉彬・ベックマンほか九点
日の出の屏風の前に積まれた贈り物、柱に貼る細長い凧の絵、十メートルの巻物に描かれた迎春の行事。正月にまつわる九点を数えると、門松は一本も立っていなかった。飾りと遊びと商いと、裏返った祝いの言葉まで並べて読む。
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作品を知る
冬の絵は、よく動いている——グリフィア・タサール・バーチフィールドほか九点
冬の絵を九点数えると、じっとしている人は薪にもたれた母子だけだった。氷の上を滑り、鶏に餌をやり、枝を拾い、雪の街を行き交う。暖炉も炬燵も一点も描かれず、寒さをしのぐ場面はほとんど画面の外に置かれている。
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作品を知る
色だけの秋は、意外に新しい——イネス・如水宗淵・陳洪綬ほか九点
黄と橙に染まるイネスの野は、題を見る前から秋と分かる。だが九点を数えると、色だけで秋を名乗る絵は近代の欧米に固まっていた。墨だけの晩秋、紅葉の題だけの版画、葡萄の収穫、鉄の秋草。色に頼らない古い秋を並べ、褪せる染めと残る形まで考える。
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作品を知る
暑さは描けず、涼みが描かれる——歌麿・円山応挙・ピュヴィスほか九点
夕涼み、月の夜、そよぐ柳、水浴び。夏と題した絵を九点数えると、半分以上が暑さではなく涼しさを描いていた。暑さを正面から描いたのは、太陽の下で麦を刈るヨーロッパの二点だけ。温度は色も形も持たないから、絵にできるのは暑さへの対処と、その結果なのである。
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