COLUMNSコラム
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作品を知る
花の名が、春の代わりをする——ヒード・陳洪綬・ベローズほか九点
春と題した絵は、九点のうち三点しかない。残りは林檎、桃、梅と、木の名前だけで季節を告げる。東アジアは一枝で、西洋は籠に山盛りで。数えると、この九点に咲いた桜はなく、桜の字が出るのは実を並べた図譜だけ。梅は英語の記録でプラムと書かれていた。
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美術史・技法
祭りの絵は、行列の顔でやって来る——グアルディ・石鋭・ジローほか九点
祭りの絵を九点集めると、五点までが行列にかかわっていた。ヴェネツィアの凱旋車、瓜を引く虫たち、雛壇の三月、月を待つ巻物、名も日付も失われた湖畔の行列。何の日の絵かを記録に探しながら、祭りが絵になる形を数える。
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作品を知る
休むには、理由が要る——カラッチ・デューラー・姚廷美ほか九点
休息を題に持つ絵を九点並べると、目を閉じている人は一人もいなかった。働いたあと、逃避の途中、暑さのさなか。休息には必ず理由が添えられ、その理由を示す道具が置かれている。説明の要らない休みは、虎の一点だけだった。
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作品を知る
鳴らしていない時間が、絵になる——探幽・バビューレン・バルラハほか九点の楽器
笛を吹く菩薩、杯を掲げるヴァイオリン弾き、そして楽器を持たない音楽家の肖像。楽器の写った九点を数えると、鳴らしている最中は四点だけで、残りはみな構えたままだった。絵が選ぶのは、音の前後の、止まっていられる時間である。
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作品を知る
絵のなかでは、大人もよく遊ぶ——華嵒・リュノワ・ネッチェルほか九点
遊びは子どもの時間だと言われる。だが遊びを描いた九点を数えると、子どもが遊ぶ絵は三点、大人が遊ぶ絵は四点あった。目隠し鬼は清の中国と世紀末のフランスで同じ布一枚。盤と札を囲むのは神と大人たち。絵のなかの遊び手を数え直す。
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美術史・技法
ミルは、古びてから絵になる——ロイスダール・ミシェル・ハインほか九点
水車と風車の絵を九点集めて、機械が動いているかを数えた。動く証拠を持つのは、水がぼやけた写真の一点だけ。十七世紀の風車は現役で、十九世紀のミルは古びてから描かれた。挽く機械の語が、搾り小屋と金貨と紡績工場へ広がるまでをたどる。
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作品を知る
門は、いつもくぐる前にある——アルトドルファーほか九点
門の下で抱き合う二人の木版画から、パドヴァの街の門、カルナックの塔門、蘇州の裏門、凱旋門、水門、ヨセミテの谷の門まで。九点を数えると、門の真下に人がいる絵は二点だけで、八点までが手前から描かれていた。絵のなかの門がなぜくぐる前ばかりなのかを考える。
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美術史・技法
糸の仕事は、うつむいた顔でできている——梁楷・北斎・ゴヤほか九点
蚕から布までを十四場面で描いた巻物から、砂漠に立てた織り機、レース編みの手元、そして編み物にたとえられた筆まで。糸の仕事の九点を数えると、顔を伏せた人ばかりで、染める場面と縫い上げる場面だけが欠けていた。
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美術史・技法
洗うか、干すか——ルペール・ドガ・広重ほか九点の洗濯
洗濯の絵を九点集めると、絞る場面も畳む場面も一つもなかった。あるのは水に触れる瞬間と、布が空にさらされる瞬間だけである。月の光で晒す修道院の庭、セーヌの洗濯船の階段、そして洗濯物にそっくりな干瓢の綱まで数える。
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作品を知る
裸は、水に入らない——ドガ・ブラックモン・春汀ほか九点の湯浴み
湯浴みと水浴の絵を九点集めると、湯船の見える絵は一点もなかった。裸の五点で水に入るのは膝までの一人だけ、肩まで浸かるのは着物と水着の人である。裸ほど水から遠く、着衣ほど水に近い。湯屋を出る素足から、人のいない沐浴池まで数える。
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美術史・技法
酒は写らず、酔いだけが写る——マンテーニャ・馬遠・木米ほか九点
混酒器の内側に描かれた軍船は、酒を注ぐと海を渡りはじめる。酒にまつわる九点を数えると、注がれた酒はどこにも写らず、器と、酔って傾いた体だけが残っていた。鍵の掛かる酒瓶入れから、金継ぎの酒注ぎまで並べる。
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美術史・技法
茶の絵に、茶は写らない——仁清・陳漢文・ティソほか九点
葉を仕舞う壺、皇帝の詩を彫った急須、渓谷で湯を沸かす扇の絵、そして茶の字が付いた木の刀。茶にまつわる九点を数えると、注がれた茶の色も湯気も葉も、どこにも写っていなかった。茶の絵とは、道具と時刻の名の絵である。
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作品を知る
食卓の絵で、献立はほとんど読めない——デューラー・ゴッツォリ・コールテほか九点
最後の晩餐から江戸の宴、卓上の静物、実物の卓と食器揃まで九点を並べ、何を食べているか読めるかを試した。宴の絵で献立の読めたものは一点だけ、種類まで分かる食べ物は無人の静物にしかない。食卓の絵が本当に写しているものを、卓の位置と器の中身から数える。
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美術史・技法
台所を台所にしているのは、道具である——ソルフ・ヴュイヤール・師宣ほか九点
火と水と道具の場所、台所を描いた九点を数えた。炎が燃えている絵は一点だけ、水の見える絵は一点もなく、画面を埋めるのは鍋と桶と包丁である。家の台所に立つ女、女郎屋の裏方、舟に積んだ台所、魚をねらう猫まで数えて、道具だけで台所に見える理由を読む。
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作品を知る
寝台の絵に、眠っている人はいない——デ・ホーホ・湖龍斎・ロートレックほか九点
作り付けの寝台、天蓋の幕、蚊帳、畳む夜具。寝台という家具と場所を描いた九点を数えると、横たわる人は二人だけで、確かに眠っている人は一人もいなかった。眠りの前後にだけ絵になる寝床の性格を、木の寝台五点と敷く床三点、詩の中の寝床一点から読み解く。
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作品を知る
星は、画面に一つしかない——ディ・パオロ・デューラー・ドガほか九点
三博士を導く星も、写本の隅の金の粒も、画面にはたった一つきり。星の絵を九点集めると、ちりばめた夜空は一枚もなく、星は冠になり、胸の記章になり、人の呼び名になり、題箋の字になっていた。数えられるほど少ない星が、一つずつ役目を負っている。
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作品を知る
灯りは、道具の形で残る——ドリスコル・テルブシュ・谷文一ほか九点
灯りの語で九点を集めると、実物の灯具が四点、描かれた灯りが五点だった。実物の火はすべて消えていて、絵の中の火だけが点いたままである。蝋燭から油、電気、そして灯台まで、灯りの道具の幅を並べ、火が記録に残らない理由を考えた。
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作品を知る
夕方は、行動に写る——モネ・陶泓・ムンクほか九点
夕食後の食卓に器が三つ残り、農夫が家路につき、灯りの下で縫い物が続く。朝が題の行にしか宿らないのに対し、夕方は人の行動そのものに写る。帰る・居残る・選ぶ・縫う・片づける。九点の夕方を動詞で数え、朝の回と対にして読む。人のいない夕べも並べた。
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作品を知る
太陽は、隠すか、輪にして描く——バーチフィールド・狩野周信・モネほか九点
太陽はまぶしくて直視できない。では絵はどう描くのか。木や雲で隠す。画面から締め出して光の働きだけを塗る。直視できる朝の赤い円を選ぶ。顔を付け、人にまとわせ、金の文様にする。九点を数えると、さえぎりなしに丸く描かれた太陽は一点しかなかった。
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作品を知る
朝は、題の行で決まる——アルピニー・ビュオ・丁雲鵬ほか九点
夜明けの狩人を描いた水彩は、かつて午後の狩りという題で売られた。朝の光は夕方と区別がつかない。朝の語を記録に持つ九点を並べ、朝がどこに宿るかを数えた。光に四点、街の営みに一点、祈りの名に一点、比喩に二点。そして人名の中の朝が一点である。
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