美術史・技法

絵を家業にする——ピール一家

ピール一家は四人が画家だった。父は肖像、息子は静物、孫の世代も描かれる。同じ顔を繰り返し売り、博物館という副業も持った。家業としての絵を、九点の公開作品から読む。楕円の窓という発明や、名前が期待になる過程も追う。

ジョージ・ワシントン
ジェームズ・ピール《ジョージ・ワシントン》メトロポリタン美術館蔵

額のほうが、絵より大きい

一点の細密画から始めたい。

ジョージ・ワシントン
ジェームズ・ピール《ジョージ・ワシントン》1782年。象牙に水彩。縦3.8センチ、横2.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。銀の額に金の鷲の飾りが付く。ジェームズ・ピール《ジョージ・ワシントン》メトロポリタン美術館蔵

まず絵の寸法である。縦3.8センチ、横2.5センチ。

切手ほどの大きさに、男の胸像が描かれている。

白い髪、青い上着、白い襟布。顔は正面を向いている。

象牙の薄板に、水彩で描かれた細密画である。

そして、その周囲を見てほしい。

銀の板が四角く広がり、細かい唐草模様が彫られている。

上部には金色の鷲が羽を広げ、盾を抱えている。

左右には金の束桿のような飾りが立つ。

下部には金の札があり、「JAMES PEALE 1782」と読める。

絵の面積は、額全体の二十分の一もない。

つまりこの品は、絵と金工の合作である。

金工の意匠にも意味がある。

鷲は合衆国の象徴である。束桿は古代ローマの権威の記号にあたる。

つまり額が、描かれた人物の立場を語っている。

顔は小さくても、周囲の飾りが格を作る。

制作年は1782年。独立戦争がまだ続いていた時期である。

戦争の最中に、将軍夫妻の記念品が作られていたことになる。

肖像が政治の道具として働く例である。

金属の上の顔については別のコラムでも扱った。

マーサ・ワシントン
ジェームズ・ピール《マーサ・ワシントン》1782年。象牙に水彩。縦3.8センチ、横2.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。同じ意匠の銀の額に納まる。ジェームズ・ピール《マーサ・ワシントン》メトロポリタン美術館蔵

対になる一点である。

寸法も額の意匠も、先の一点と揃えられている。

描かれているのは、白い帽子をかぶった女性である。

こちらも顔は正面を向き、肩から下は暗く沈んでいる。

二点で一組の記念品として作られたことになる。

一組で作る理由は、飾り方にある。

対の細密画は、並べて壁に掛けるか、箱に納めて保管する。

夫婦の肖像を対で作る形式は、ヨーロッパから受け継がれたものである。

その仕組みは別のコラムでも扱った。

新しい共和国の指導者夫妻に、王侯の肖像の形式が当てられている。

ピール一家という工房

作者の名を見てほしい。ジェームズ・ピール。

この一族は、アメリカの絵の歴史に何人も名を残している。

兄のチャールズ・ウィルソン・ピールは肖像画家で、博物館も開いた。

その息子たちの名前が面白い。

レンブラント、ラファエル、ルーベンス、ティツィアーノ。

いずれも過去の巨匠の名である。

つまり父は、生まれた子に画家の名を付けた。

家業として絵を続けることを、名前の段階で決めていたことになる。

当サイトには、この一族の作品が84点公開されている。

チャールズ・ウィルソンが28点、ジェームズが33点。

ラファエルが11点、レンブラントが12点である。

問い——絵を家業にすると、何が起きるのか

ここから本稿の問いに入りたい。

家族で同じ商売をすると、仕事はどう分かれるのか。

同じ主題を扱えば競合する。だから分担が生まれるはずである。

そして、父の型はどこまで引き継がれるのか。

四人の作品を並べて確かめていきたい。

先に結論を書いておく。

この一族は、分野を分けて市場を分担していた。

肖像、細密画、静物、大画面。それぞれが別の需要に対応している。

そして技術と型は、家の中で受け継がれている。

父は、家族を描いた

まず父の作品である。

ピール夫人(レイチェル・ブルーワー)と幼いエレノア
チャールズ・ウィルソン・ピール《ピール夫人(レイチェル・ブルーワー)と幼いエレノア》1790年。象牙に水彩。縦6.5センチ、横5.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。チャールズ・ウィルソン・ピール《ピール夫人(レイチェル・ブルーワー)と幼いエレノア》メトロポリタン美術館蔵

こちらも細密画である。縦6.5センチ、横5.2センチ。

楕円の金枠に収まり、上に吊り環が付いている。

女性が幼児を抱いている。

女性は白い服に薄布を巻き、髪を高く結い上げている。

幼児は白い衣で、頭に小さな帽子をかぶる。

母の腕が子を支え、二人の顔が寄せられている。

描かれているのは画家の妻と娘である。

つまり注文品ではなく、身内の記録である。

細密画は贈り物であり、同時に家族の記念でもあった。

息子は、弟を描いた

ゼラニウムとルーベンス・ピール
レンブラント・ピール《ゼラニウムとルーベンス・ピール》1801年。油彩・画布。縦71.4センチ、横61センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。レンブラント・ピール《ゼラニウムとルーベンス・ピール》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

若い男が、鉢植えの隣に座っている。

赤褐色の上着に、白い襟布。髪は乱れ、額に落ちている。

顔には丸い眼鏡がかけられている。

そして、もう一つの眼鏡が手元の卓に置かれている。

眼鏡が二つ描かれているのは、視力の弱さを示すためだろう。

右にはゼラニウムの鉢がある。赤い花と、丸い葉が四方に広がる。

葉の緑は濃く、葉脈まで描かれている。

描かれているのは画家の弟、ルーベンス・ピールである。

制作は1801年、画家は二十三歳ごろである。

弟は植物と博物学に関心を持っていたと伝えられる。

だから鉢植えが、人物の説明として置かれている。

肖像に持ち物を添える方法は、この時代の常道である。

この一点の描き方も見ておきたい。

肌は薄い層を重ねて作られ、頬に赤みが差している。

一方で、ゼラニウムの葉は絵具が厚い。

葉の縁の産毛まで描かれ、光が上面で白く跳ねている。

つまり人物と植物で、絵具の扱いを変えている。

植物画の細密さと、肖像画の柔らかさが同じ画面に同居している。

一族が博物学に関わっていたことが、この扱いに現れているのだろう。